真空管の動作テスト 仕切り直し その4

(2014.8.30作成)
こんどはPPの実験です。こちらも出力は5W以上あれば十分ですが、折角のPPなので10Wくらいは欲しい所です。動作点はシングル同様適当に決めても良いですが、取り敢えずシングルのA1PP化で実験です。

同時に以前から気になっていた事についても実験で確認してみました。
5極管限定でのPPのバランス調整方法についてです。
5極管はSGがありますから、バランス調整はCGでなくSGの電圧調整でも可能なはずですが、その様な例を見た事がありません。5極管PPの製作例が少ないためでもありますが、昔見たアンプ製作の雑誌などでも例がありませんでした。前に書いた通り、Esgは半導体素子でいうところのランクを変える効果があります。真空管のバラツキにもいろいろなパターンがあるとは思いますが、ランク差に相当するバラツキであればEsgでバランスをとるべきだと思います。それを普通のEcgによるバランス調整を行うと、無信号の調整点は一致しますが、入力信号でEp・Ipが振れるとバランスがずれてしまいます。下記6CW5のIp-Ecg特性曲線を例として見ると、左端の特性曲線はEsg=250Vですが、Ecg調整の様にEsg=100Vの曲線を平行移動させても曲線は重なりません。これは負荷抵抗ゼロでの様子ですが、負荷抵抗有りの場合でもこれに準ずる結果となるはずです。
なので5極管でのバランス調整は、Esgで行うのが最適と考えています。


それで非ペアの2本を使って、無調整、Ecg調整、Esg調整で歪率特性を比較してみることにします。所詮中古品だらけなのでペアを選別する方が難しいですが、この際は特性差が大きい方が結果の差もハッキリするでしょう。

実験(6CW5 中古品2本 A、B)
  A Ep=260V、Esg=160、Ecg=-13.9V ⇒ Ik=37mA
  B Ep=260V、Esg=160、Ecg=-13.9V ⇒ Ik=51mA
ヒーター直列で0.76A流したら、A/Bとも約6.3Vとなり、ヒーターの差はありませんでした。
これを使用して上記動作点で、A1PPに近い動作させて比較します。負荷抵抗は10KΩ、使用OPTは余裕をみてOPT-15P(5KΩ)を使います。4Ωタップに8Ω(実際は8.32Ω)を接続して10KΩとします。
試験用B電源回路、電流が100mA超になりリップルも5Vを超えるので、ツェナーは余裕を見て12V(1N5242B)に交換しました。バイアスの安定性を考えて、初段差動増幅のエミッタに抵抗を加えてゲインを少し下げて試し実験をしましたが再現性が不十分だったので、結局CR結合を追加して普通の固定バイアス方式で測定しました。

(1)無調整(Ep、Esg、Ecgを同一にする ⇒ Ipはアンバランス: 大体上記の値)
CL=13.6W、A=45.8dBです。


(2)Ecg調整(Ep、Esgを同一で、Ecg調整してIpを同一にする)
CL=13.8W、A=46.5dBです。


(3)Esg調整(Ep、Ecgを同一で、Esg調整してIpを同一にする)
CL=13.5W、A=46.7dBです。


(4)考察
1KHzの偶数次歪(注)が、無調整>Ecg調整>Esg調整の傾向になっている様に見えます。100Hz歪も同じ順で改善しています。これはIpのバランスと2次歪の打消しが同じ順で向上していると言えます。主要な歪である奇数次歪については当然打消しが起こらないので、大体同じ値になっていますが、これは前にシングルで実験したときのUL0(5結無帰還)の3次歪を右に平行移動したような曲線になっています。A1PPですから、歪カーブは似ていて出力が倍になるので概ね当然の結果です。そこで前の実験で考えたとおり、UL90をPP化すれば低歪特性が得られそうです。それでUL90PPをEsg調整で測定してみました。
CL=11.4W、A=41.1dBです。



予想以上に良い結果となっています。これだと無帰還でも使えそうな性能です。UL比はVRの目分量なので2本のUL比は正確に合わせていませんが、たまたま良い比率になったのでしょう。100Hzの歪率は1KHzに比べて大分が悪いですが、5極管(高内部抵抗)の限界でしょう。それで8Ωタップに8.32Ωを接続して負荷抵抗を5KΩに下げて測定してみました(動作点は同じなので、AB級的動作になります)。
CL=12.4W、A=41.0dBです。



AB級なので多分偶数次歪の打消しが不完全となった為、1KHz、7KHzの歪率が若干悪化したようですが、低域特性は改善しました。しかしDF<1になっているので、DFを上げるために適当なNFをかける必要があるでしょう。
UL90(RL=10K、5Kともに)に少しNF(RNF=47K、高域補正なし)をかけて、測定してみました。





どちらも少しのNFで、十分実用的な特性になりました。

次はUL180とUL270(3結)です。これらはA1PPでは出力が小さいので、RL=5K(AB級)として、UL270(3結)はさらにEsgを200Vに上げて測定してみました。
CL=6.8W、A=38.5dBです。



CL=5.4W、A=35.8dBです。



どちらもDFはギリギリ低めで出力も小さいですが、特性的には無帰還でも十分使えそうです。

以上で、バラ品でもPPで十分な性能を出すための手法の可能性を示せたと思います。5極管に限れば高いペア品を調達しなくても済み、中古品でもPPに活用できそうです。
ULもPPで使えばかなり強力な方式だと分かりました。UL90はシングルの実験で約8dBが帰還に回っていたことになりますが、それ以上の効果が出ている感じです(感じだけで、NFに置き換えても同等かもしれませんが)。

”6CW5”、こいつで結構良い特性のアンプが組めそうです。

(注)歪率計測は、THD+N(内数:偶数次歪、奇数次歪)に変更しました。UL270の1KHz特性を見たら、2次、3次歪の合計がTHDに追随していない部分があって、調べるとCL付近で急激に5次、7次歪の比率が増加していました。それでPPで打消し可能か否かが問題なので前記の通り変更しました。