歪の考察(その2): 歪の打消し

(2014.3.5作成)
実物の稼働まで少々時間がかかりそうなので、今しばらく数値思考と実験で間を繋いでいきます。

前に計算した、入出力直線性グラフ特性曲線次数別歪率(A1PP 3次歪)グラフの結果を見て気づきました。
2乗のポイントでの不連続さが不自然で、その前後で極性が変わると見れば自然かなと感じてました。歪率にマイナスはないのですが、歪の位相を加味して逆位相のものをマイナス歪と定義すればスッキリします。2乗より低い特性の歪を低次性歪、2乗より高いものを高次性歪と呼び、高次性歪をマイナス歪と定義します。
改めて次数別歪率(A1PPの3次高調波歪)の計算ですが、特性曲線はy=(xのn乗)、動作点は(1,1)で、入力に±0.5正弦波のみと、3次高調波(3次歪)を±0.25%(+は基本波とゼロクロスの向きが一致)含んだ入力の場合も、合わせて計算してみました。


グラフから明らかな様に、マイナス歪入力では正弦波(歪なし)入力の曲線が下に平行移動したような変化となり、入力歪量に応じて低次性歪が打消され1.32乗と1.66乗辺りの特性でゼロ歪となっています。プラス歪入力では同様に高次性歪が打消され、2.2乗辺りの特性でゼロ歪となっています。低次性と高次性の増幅特性は、その歪(3次歪)で互いを打消し合うことが可能だということが分かりました。

入出力直線性(ここでは、カーブが顕著な1.5乗と、2.5乗でのA1PPの特性を計算)のグラフも再度掲載します。


1.5乗曲線の場合、直線性が下側に湾曲し、2.5乗曲線では上側に湾曲していますので、うまく足し合わせれば入出力特性を直線に近づけることができそうだと、直観的に理解できるかと思います。
つまり前回の仮定などが概ね正しければ、3極管PP(差動増幅を含む)と5極管PPは、お互いの歪を打消し合えるということになります。ただし実現するためには信号レベル全域に亘って、歪率を合わせる必要があるので、設計はかなり難しそうです。
増幅器の歪がどちらのタイプかは、特性が不明でも先の計算結果から3次高調波を含む正弦波を入力することで簡単に確かめる事ができるはずです。3次歪は基本波の半波遅れで同相になってしまいますので、同じタイプの特性を多段にしても、打消しができません
一方シングル増幅での2次歪の現れ方は、全ての特性において同じ位相(基本波から90度遅れ)で、かつ基本波の半波遅れでは逆相となりますので、どの組み合わせでも多段で打消し効果を期待することが可能です。ただし、いろいろ計算する中で分かったことですが、2次歪を発生する増幅器に2次高調波を含む信号を入力すると、副次的に3次歪(3倍周波)が発生します。例として、以前の計算条件(2乗特性で2次歪12.5%、3次歪0%)で12.5%の90度進んだ2次高調波(と言うよりオクターブ上の音という方が実際的です)を混ぜて入力すると、2次歪は打消し効果でゼロになりますが、3次歪が3.2%程(入力倍音の約1/4)新たに発生してしまいます。

前の記事で5極管(2乗を超える特性の場合)の3次歪が思いのほか小さく安心した、と書きましたが大いなる早合点でした。5極管の音は3次歪が多いから駄目と言われていたようですが、実は2次歪が3極管に比べて多く、副次的に出てくる3次歪などの多さで5極管の音が敬遠されていたのではないでしょうか。2次歪は耳に障り難いから多少あっても問題ないという記述を、かつて3極管無帰還アンプの製作記事などで良く目にしましたが、それも全くの思い込みによる誤りだったという事が、自分で計算できるようになった今日に良く分かりました。要するに歪(種類に関係なく)はゼロに近いほど良いという事が!!

上記の検証を、手持ちの中古42で行ってみました
公開されてる規格表の特性図から読み取った感じでは、2.2乗くらいの特性かなと推定してました。
回路は、前の記事にある実験回路とほぼ同じです。ドライバ回路は若干変更しています。
動作条件は、公開されてる規格表などに掲載されてる標準のA1増幅データを起点とします。
Ep、Esg = 250V
Ec = -13.6V (標準では16.5Vですが、Ip34mA流すために-13V位必要な中古品で、それより少し深めとしました)
OPT 東栄OPT-23S
RL 7KΩ (プレートに3KΩ端子を接続し、OPT 8Ω端子に19Ω接続(公称20ΩVRを使用))

ここからRLを小さくしていってクリップしない程度の出力で3次歪のタイプを確認しました。
結果、OPT 16Ω端子に約1Ωを接続(RL 約200Ω相当)した範囲まで全てで、低次性歪(マイナス歪で打消される)となりました。

予想外の結果にちょっと落胆というか何かミスがあるのかと考えて、1Ω接続の状態でドライバの歪を測ってみたら、全てが分かりました。
RL端子の3次歪 0.13%
ドライバ出力(42グリッド入力)の3次歪 0.22%

ドライバは差動増幅なので低次性歪であり、RL端子でドライバの歪より小さいということは、42が高次性歪で打消しが発生しているということになります。ドライバが低次性歪であるのは、入力にマイナス歪0.22%を加えてドライバの歪が0%になることで確認しました。つまり
RL歪(+0.13%) = ドライバ歪(+0.22%) + 42歪(-0.09%:推定値)
という式のとおり、42は高次性歪の状態(2乗を超える特性)として動作しているということが、確認できました。多分もう少し高いRLで2乗特性となるのでしょう。
これで今までの考察におけるモデルの正当性が証明できたかなと思います。つまりは2乗を大きく超える特性を持つ球が見つかれば、実用出力が得られる範囲のRLで丁度2乗特性で動かせるだろうという事で、それをPPにすれば無帰還で相当な低歪を実現できるはずです。
今後は実機に向けた検討と並行して、手持ちの球の特性を調べていくことにします。

(注)前回同様、数学・オーディオの素人なので、計算に誤りがあってもご容赦下さい。