真空管の動作テスト 仕切り直し その2

(2014.8.14作成)
実験(10CW5: 最大定格 Ep=250V、Esg=200V、Pp=14W、 中古品)
代表動作例の
  Ep、Esg=170V、Ip=70mA、RL=2.4K、Po=5.6W
を前の試験環境で試した時に、最大出力になる前に片側波形が急にカットしてしまい、NFBをかけるとクリップレベルまで出力できました。これは使用したOPT(OPT-23S)の磁界限界を超えたのかなと思いました。製品上は100mA重畳可となっていますが、これは100mA±XXmAという意味でなく、±に振れて合計で100mAそこそこが限界なのかなと思い、1回り大きいOPT-11Sに替えて試しました。途中クリップは出ませんでしたが4Wはおろか、3.7W位しか得られませんでした。規格表に掲載されている特性曲線にロードラインを引いて計算してみましたが、やはり5.6Wは無理のようでした。
歪10%の出力とクリップレベル出力の違いなのかもしれませんが、今回は方針に従って最大定格だけを考慮して
  Ep=245V、Esg=200V、Ip=50mA (Pp=12.5W、想定最大出力は 12.5W×35%=4.4W)
電圧は定格一杯で実験。最適負荷245/50=5KΩでオシロ・歪観測すると、丁度良さそうなのでSG電圧を加減した具合を見て、Esg=160Vでデータ取りしてみました。もちろんEsg=200Vの方が歪率は若干向上します。
(1)裸特性 (CL=4.3W)


基本性能としては、まずまずです。
歪率特性、通常は100Hz、1KHz、10KHzですが、オーディオ帯域しか測れていませんので、10KHzでは3次高調波が入りません。それで7KHzで測っています。個人的には7KHzでも2次高調波が聞こえるか聞こえないギリギリのところなので、7KHzの歪を測る必要はないと思っていますが。

(2)P-SG帰還
ウルトラリニア(UL)の接続比を0%(5結)~100%(3結)の範囲で変えて歪率特性・周波数特性を見ます。OPTからタップを任意に取り出せないので、回路で疑似的に実現します。接続回路の一般形は、B電源回路を少し変形した次のものです(注1)


Esgの変化範囲によっては、D799コレクタの給電をプレート側(3結の場合)だけ、またはEb側だけで済ます事もできます。これで、VR200Kの回転角度が見た目270度くらいなので、45度、90度、180度、270度(3結)で測定します(注2)
0度(UL0)は(1)の裸特性になります。
<45度> (CL=4.3W)


<90度> (CL=4.0W)


<180度> (CL=1.9W)


<270度> (CL=1.1W)


入出力特性、周波数特性、DF特性を、0度(UL0=無帰還)を含めてまとめて表示します。
UL270はCL=1.1Wなので、周波数特性は0.7Wくらいで測定しました。



面白い変化です。出力インピーダンスと3次歪が有意に変化してるように見えます。ゲインが落ちている(帰還がかかっている)のに、高域特性が全く変わらない(改善されない)のも意外です。整理すると、
 ・帰還率は、UL比とともに増加する。
 ・出力インピーダンス(低域特性)は、帰還率に応じて低下(向上)する。
 ・THD(主要な2次歪)については有意な変化は見られないが、3次歪はUL比に応じて特徴的な変化を示す。
特性の変化から、P-SG帰還はいわゆる負帰還動作とは違うものと思われます。UL比増加に伴ってゲインの低下、内部抵抗の減少、肩特性の変化(3極管化)が起こった結果であると考えられます。
これらから、シングル動作においては、3結を含めたUL接続の適用は余り意味がなく、NFB利用の方が優ると判断できます(注3)。しかしPP動作においては、3次歪の大小が重要であって、ULの中間(UL45~UL90)比率の特性を上手く利用すれば、最大出力をあまり損ねずに軽NFB・低歪アンプが出来そうです。特に出力が大きい部分で3次歪が低くなっているのが魅力的です。以前歪を考察した時の様に、2次関数特性を、球と負荷抵抗の組合せから探すという方法より簡単かもしれません。ただし、ここでのデータは6CW5の特定条件に置ける結果であって、球や動作点などを変えたときに、この傾向の強弱がどう変わるのかは分かりませんが、大いに興味深いところです。

(2)P-CG帰還
超3結と同じです。超3結では前段負荷抵抗と帰還抵抗を能動抵抗で兼用して、ついでに前段の出力インピーダンスを下げる一石三鳥的な回路ですが、ここでは単純な回路で測定します。


帰還率は前段の出力インピーダンスとRの比で変わる訳ですが、Rは適当に選んで、ゲイン差で判断し、帰還量にたいする歪率特性・周波数特性の変化を見ることにします。
<R=10MΩ> (CL=4.3W)


<R=3.3MΩ> (CL=4.3W)


初段のドライブ能力が非力なので3.3MΩ以上の帰還はできませんでしたが、結果(後にまとめた周波数特性も含めて)をみると、予想通りオーバーオールNFBと同様の効果と言っていいでしょう。出力段の出力端子から入力端子への帰還(=1段だけのオーバーオールNFB)なので当然とも言えます。逆にいえばULの様な特徴は見られません。
従ってオーバーオールNFBが適用できる場合は、特に考える必要はないでしょう。

(3)オーバーオールNFB
上記2種類の結果から、やはり本命はオーバーオールNFBという事で、5結(UL0)にNFを付けて測定してみました。傾向は同じになるので帰還率は1つを選んで測定しました。
<約18dB>RNF=47KΩ、高域補正に180pを接続してあります。


入出力特性、周波数特性、DF特性を、無帰還(UL0)とP-CG帰還を含めてまとめて表示しました。



(4)蛇足
3結(UL270)で条件を変えて出力を見てみました。
  Ep=245V、Esg=200V、Ip=50mA、負荷抵抗2.5KΩ
で出力はCL=1.9Wでした。やはり3結では2Wくらいが限界のようです。


(5)結論
6CW5のシングルでは今回の動作点で(3)のように5結で20dB以上のNFBをかけるのが、目標にかなうという事が分かりました(注3)
初段差動増幅は、利得が高すぎてバイアス点のドリフトが大きく、年間を通じて気にせずに置くという具合ではないので、本番機を作る際には、NFB量を見積もってから過剰なゲイン(15dBくらい)を下げておくか、いっそのことCR結合にしておく必要はあると思っています。プレート電流も低めなのでOPTも1ランク下(OPT-23S、OPT-5Sなど)で良いかもしれません。

(注1)Ep、Ebからの給電が共存する動作では、クロスオーバー歪が発生するので、実用機では使用できないことが、後日判明しました。UL45~UL270で低出力の歪率が悪いのは、その為でした。

(注2)半固定VRの抵抗値から、
45度=UL15%
90度=UL32%
180度=UL68%
270度=UL100%(3結)
に相当します。
(注3)2次歪打ち消し手法とULを組み合わせることでNF量を抑えて、5極管シングルアンプでも容易に好特性が得られることが、後日の検討で判明しました。